トレド滞在記2022
そもそも
2022年8月にトレドに日帰り旅した時の様子。
トレドはマドリードから南に約70kmに位置し三方をタホ川に囲まれた丘の上に築かれた城塞都市。人口は10万人以下。ギリシャ出身画家エル・グレコが30代後半以降に定住し没するまで芸術活動を行なった街としても知られる。「古都トレド」として世界遺産に登録されている。
トレドは6世紀にイベリア半島の広範囲を支配した西ゴート王国の首都となった。王をはじめとする支配者層は、キリスト教徒である被支配者層(先住民)をよりよく統治するためにキリスト教に改宗した。それ以降トレドは教会会議が度々開かれるなどキリスト教文化の中心都市として繁栄し、トレド大司教はイベリア半島で最も権威ある大司教とみなされるようになった。
8世紀初頭にイスラーム勢力のウマイヤ朝によって西ゴート王国が滅ぼされると、以後350年以上トレドはイスラーム勢力の支配下に置かれた。その間もトレドではキリスト教徒、イスラーム教徒、ユダヤ教徒が共存し交流があったとされる。
11世紀後半にレコンキスタの一環でカスティーリャ=レオン王国のアルフォンソ6世がトレドを支配すると、再びキリスト教勢力の支配下に置かれた。カスティーリャ=レオン王国においても異教徒に対しては寛容だったとされる。12-13世紀にトレドに翻訳学校が設立され、数多くのアラビア語文献がラテン語に翻訳された。9世紀前半にアッバース朝の首都バグダードに設立された「知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)」でギリシャ語文献がアラビア語に翻訳され、そのアラビア語文献がトレドでラテン語に翻訳されたことで、古代ギリシャ文明の学問や歴史がキリスト教世界に逆輸入されることになった(12世紀ルネサンス)。
という歴史を背景に、キリスト教、イスラーム教、ユダヤ教など異なる宗教文化が交錯してできた街がトレド。
スピンオフ
トレド駅
マドリードのアトーチャ駅から高速列車に乗って40分ほどでトレド駅に到着。
ネオムデハル様式の駅舎。
旧市街へ
トレド駅からアルカンタラ橋を渡って旧市街へ。
旧市街
旧市街への入口アルカンタラ門
侵攻する兵士の気分でとりあえず高い方へ登っていく。
さっき渡ってきたアルカンタラ橋はこんな感じ。
街の高台から望む城塞外の景色。アンダルシアに似てる。
街中が坂道だらけ。
クリスト・デ・ラ・ルス・モスク
999年後ウマイヤ朝時代に建てられたモスク。トレドに現存する最も古い建造物の一つ。カスティーリャ=レオン王国時代に内部がキリスト教の教会に改築された。
観光地をお得に回れるリストバンドを購入。
なんだかんだで後世に再建された小綺麗な教会が多いが、ここはほぼ当時のまま。
太陽の門
14世紀に建てられたムデハル様式の城門。一旦門を出て街の最北へ向かう。
ビサグラ新門
16世紀に建てられた旧市街の最北に位置する城門。
門を抜けるともう一つ門が。
サンティアゴ・デル・アラバル教会
13世紀に建てられたムデハル様式の教会。
サン・ロマン教会
12-13世紀に建てられたムデハル様式の教会。西ゴート王国時代の文化を伝える博物館も兼ねる。
美しい馬蹄形アーチが並ぶ身廊。もろイスラーム建築。
主祭壇はちゃんとキリスト教建築。
主祭壇の正面にはロマネスク様式のフレスコ画。
サン・イルデフォンソ教会
16-17世紀に建てられたバロック様式の教会。聖イルデフォンソはトレドの守護聖人。
白を基調とした明るめの内部。
なんと屋上に登ることができた。ドームが目の前に。
トレド大聖堂とアルカサルが一際目立つ旧市街。
エル・サルバドル教会
12世紀にモスクの跡地に建てられた教会。建物がメッカの方角を向いている。
馬蹄形アーチを支える柱は、西ゴート王国時代の建造物から再利用したもの。
ムーアの工房博物館
14世紀に建てられたムデハル様式の宮殿内にムデハル様式の美術品や工芸品を展示する博物館。20世紀に国が取得するまでは石細工の工房だったという。
サント・トメ教会
12世紀に国王アルフォンソ6世の命で建てられ、14世紀に再建された教会
エル・グレコの傑作『オルガス伯の埋葬』を見ることができる。
エル・グレコ美術館
ベガ・インクラン伯爵が収集したエル・グレコの作品などを展示する美術館。20世紀に開館した。内部はエル・グレコが住んでいたであろう家屋を再現している。
ピカソの作品もあった。
『トレドの景観と地図』
『聖ペテロの涙』
イエス・キリストと12使徒を描いた13点の連作。
『シエナの聖ベルナルディーノ』
エル・グレコの作品はエネルギー感がある。
トランシト通り
トランシト通りから眺める旧市街の外の景観。
トランシト・シナゴーグ
14世紀に建てられたムデハル様式のシナゴーグ。1492年にユダヤ教徒追放令が出された後、キリスト教徒に占領されキリスト教の教会に転用された。
サン・フアン・デ・ロス・レージェス修道院
15-16世紀にカトリック両王の下で、息子の誕生とトロの戦い(王位継承を巡るポルトガルとの戦い)での勝利を記念して建てられたイザベリン・ゴシック様式の修道院。
Real Colegio Doncellas Nobles
16世紀に建てられた旧女子学校。
ソコドベール広場
16世紀に建設された街の中心的な広場。小説『ドン・キホーテ』にも登場する。
ミゲル・デ・セルバンテス通り
ソコドベール広場から東に伸びるミゲル・デ・セルバンテス通り。
小説家ミゲル・デ・セルバンテスの彫像。この周辺にセルバンテスが住んでいたことがあるらしい。
サンタ・クルス美術館
16世紀に建てられた病院の建物を美術館に転用した施設。
プラテレスコ様式(スペインの初期ルネサンス様式)のファサード。
時代も場所も多岐に渡る展示物が並ぶ。
エル・グレコ『受胎告知』。受胎告知をテーマにエル・グレコが描いた作品は複数点あり、そのうちの一つは20世紀前半にヨーロッパに滞在していた洋画家児島虎次郎が実業家大原孫三郎の資金で購入し日本に持ち帰ったため、現在も岡山県の大原美術館が収蔵している。
エル・グレコ『無原罪の御宿り』
美しい連続アーチの中庭。
アルカサル
ローマ時代に原型となる要塞が建てられ、西ゴート王国時代、イスラーム時代にも王宮および要塞として使用されたとされる。11世紀後半にアルフォンソ6世がトレドを支配すると、それ以降増改築が繰り返され軍事要塞として機能し、16世紀に国王カルロス1世の下で改築され王宮としても機能した。20世紀スペイン内戦中に共和国軍の包囲戦によって破壊されたが、後に再建され現在は軍事博物館となっている。
アルカサルの遍歴を物語る遺構。
美しい連続アーチのパティオ。
広々とした屋上からはトレドの街を一望できる。
やっぱりアンダルシアに似ている。
ダマスキナード
トレドは中世の時代からダマスキナードと呼ばれる金銀細工・象嵌細工や武器製造が盛んで、街を歩くと象嵌細工が施された工芸品や武器を販売するお店を頻繁に目にする。
ケソ・マンチェゴ
Museo del Queso Manchego Toledoというケソ・マンチェゴ博物館を通りすがりに発見したので入ってみた。ケソ・マンチェゴは羊乳を原料としたラ・マンチャ地方発祥のチーズ。
特に博物館っぽくはなかったが、チーズとワインの品揃えが豊富そうだった。
おすすめのケソ・マンチェゴとワインをいただいた。
ボカディージョ
Viandas Hacienda Zoritaという生ハム専門店に入ってみた。原木が並ぶ圧巻の光景。
生ハムのボカディージョをいただく。ボカディージョはバゲットに具材を挟んだサンドイッチ。所詮サンドイッチと甘くみていたが、生ハムがたっぷり入っていて旨味もたっぷりで想像の3倍美味しかった。